大ヒットする本を狙わないというスタンス

おそらく、多くの出版社では、
半年前や一年前の本がどれだけ粗利を出しているのか、
それを確認する場が提供されていることでしょう。

編集者一人一人がどれだけ稼いできたかが一目でわかりますし、
正直長い間、数字を稼いでいなかったら、居心地が悪く感じたりするもの。

編集希望だけど営業に配属された方だったり、
編集の仕事に興味のある異業種の方などは、
虎視眈々と編集者のポストを狙っていたりします。

そのため、会社に数字を稼げない編集者だと思われてしまったら、
編集に携わる機会を他の方に譲らざるを得なくなるのです。


編集者として活躍し続けるには、
やはり頻繁に売れる本を出し、実績を上げていくしかありません。

しかし、今はご存知の通り、出版不況です。
出版産業がピークだった1996年から、
業界の規模は右肩下がりの状態で推移しており、
なんとピークの半分ほどのところまで来ています。

そんな中、売れる本を作り続けるのは、やはり簡単なことではありません。

何を出したら売れるのか?
などと、四六時中も頭を悩ませている編集者は少なくないでしょう。
会社の上司から「ヒット書を書いた著者にアプローチしろよ」などと、
詰め寄られた経験を持つ方もいるかもしれません。

ヒット書を生み出したいという気持ちと、
生み出さなければというプレッシャーが交錯して、
なんだかよくわからなくなっている編集者も、
もしかしたら少なくないのかなと思います。

企画に携わるのが苦しくなりそうですよね・・・


私が会社員時代、そんな悪しき状況を回避できていた理由として、
こんなのがあげられます。

  • 10万部以上の本を作ろうとしなかった
  • ニーズがあるテーマかに着目した
  • 大ゴケを可能な限り回避するアプローチ法を持っていた


一番下のは、また今度にして、今日は上の二つを紹介します。

まず、この二つは、野球の例で考えるとわかりやすいかもしれません。

あなたは野球のバッターとして打席に立っているとしましょう。
そろそろホームランを打ちたいなと思ったら、
まずホームランを打てそうな球を待って、
そこに球が来たら、思いっきり強振しますよね。

しかし、相手の投手がとてもいい投手で、
ホームランを打てないコースばかり投げてきたら、
強振しているだけに凡打になる確率が高くなってしまいます。

もし、凡打の後に冷静に自己分析をしたら、
ホームランになるポイントは限られているけど、
ヒットにできるポイントははるかに広いので、
ホームラン狙いは得策ではないと判断できたとしましょう。

ホームランよりもヒット狙いで行くと方向性を変えることで、
ホームラン数は減ったけど打率が向上し、
結果、昨年よりもいい打撃成績だと周りから判断されることも、
十分に考えられるのです。


私は、10万部狙いの凡打を減らそうと思いました。
確実に読者がいる、つまりニーズのあるテーマに狙いを定め、
小さめの目標を立てるようにしていたのです。

このテーマならヒット狙いの〇〇部で、
これについてはツーベース狙いの△△部といった具合に、です。

ちょっとした遊びですが、
その目標を超えたら、ヒットやツーベースを打ったのと同じで、
打率が上がるという意識を勝手に持っていました。

結構、この考え方は私には合っていました。

なお、どのくらい売れれば、ヒットかツーベースかは、
ご自身で決めていいと思いますが、
会社がどのくらい売れれば評価するといった、
基準をつかんでいるといいですよね。


もちろん、定期的にホームランを打てる編集者が理想的なのですが、
その域に達するのはやはり至難の技。

ならば、ヒットやツーベースを狙ってみませんか?

面白いことに、ツーベースを狙った企画が予想以上に売れて、
ホームランになることもあります。


最後に、正直、今日この話題を書くかどうか、ためらいました。
売れる本を作ることを諦めたと思われかねないと思ったからです。

これだけは、言っておきます!

フリーランスになった今、
私がこの業界で生き抜いていくためにも、
売れる本を作って、実績を出すというスタンスを、
とり続けていきたいと思っています。

それでは、また!